Research
光分子配列技術の構築とソフトメカニクスの開拓
作製に多量のエネルギーが必要な従来の硬い材料に替わり,省エネルギープロセス型で人体にも優しいソフトかつフレキシブルな高分子が, 低環境負荷で安全安心な社会を支える次世代材料として近年注目されています。 しかしながら,エレクトロニクス・フォトニクスデバイスにおける機能発現の要である分子配列については, 低い配向度や分子構造の制約など多くの課題が残されているのが現状です。加えて,材料設計においてはソフトな材料の力学 (メカニクス) が必要になりますが, 硬い材料を対象とする従来の材料力学をそのまま適用することには難があります。従ってソフトメカニクスの開拓自体も大きな問題です。

これらの課題を解決するため,わたしたちは,光と分子配列の特異的な相互作用に着目し,高機能・高性能な高分子材料の創製を目指して, 分子設計・合成・物性評価からデバイスの作製・評価まで,基礎と応用の両面にわたり幅広く研究を行っています。 学生にとっては,幅広い分野の学問・研究に携わるだけでなく,さまざまなバックグラウンドをもつ学生・研究者との交流で視野を広げる機会があります。 本研究室では,光による新たな分子配向法を構築するとともにソフトメカニクスを開拓し,既存の常識を打ち破る次世代材料の提案を行います。 その応用は,ホログラム・立体動画・フレキシブルディスプレイなどのフォトニクス材料から力学設計を基盤とした医療機器・エレクトロニクス材料まで多岐にわたります。
フレキシブルな機能性高分子材料の力学解析と創製
フレキシブルな高分子材料はフレキシブルエレクトロニクスや医療材料などの幅広い応用が期待されていますが, そのメカニクスの理解については固い材料の延長に留まっています。最近,架橋液晶高分子フィルムの光屈曲を調べる過程で, そのメカニクスが従来の硬い材料とは大きく異なることを見いだしました。このような背景のもと, フレキシブル材料のメカニクスを開拓するとともに,特異な力学特性を発現する機能高分子材料の創製を行っています。

- フレキシブルフィルムの力学挙動解析
- 表面ひずみの微視的かつ定量的な評価
- 湾曲解析技術の設計および開発
PUBLICATIONS
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高分子フィルムの湾曲クリープ現象の実計測・理論モデル解析に成功 Soft Matter, 20 3248-3255 (2024) -
リアルタイム計測に基づき種々の高分子フィルムの湾曲疲労挙動を解析 J. Phys. Chem. C, 127, 14510–14517 (2023) -
湾曲過程におけるフィルム内部のひずみ分布可視化に成功 ACS Appl. Eng. Mater., 1, 1669–1675 (2023) -
共同開発した湾曲装置と機械学習を用いて疲労寿命を効率的に予測 Int. J. Fatigue, 166, 107230 (2023) -
ソフトマテリアルの曲げ内部ひずみ測定手法を開発 Adv. Eng. Mater., 24, 2101041 (2022) -
積層高分子フィルムの表面ひずみ定量化と理論構築 AIP Advances, 12, 015324 (2022). -
曲げヒステリシスを定量化し理論モデル構築 Soft Matter, 17, 4040 (2021) -
汎用フィルムの表面ひずみを世界で初めて測定 Adv. Mater. Interfaces, 8, 2001662 (2021) -
高分子フィルムの曲げ形状解析から修正エラスティカ理論を構築 Appl. Phys. Express, 13, 056502 (2020) -
表面ひずみ測定手法である表面ラベルグレーティング法を開発 Sci. Rep., 4, 5377 (2014)
SCROLL
光重合を利用した新たな分子配向プロセス
高機能性フィルム創製のためには,液晶をはじめとする機能性分子の精緻な配向制御が大変重要となります。 分子配向制御には偏光照射や分子配向膜が多く用いられており,これらに加えて新たな原理に基づく分子配向法の開発をしました。 空間的な強度分布を有する非偏光を用いた光重合により,簡便なプロセスで一軸分子配向や二次元分子配向パターンが誘起できることを見出しています。

- 光重合を利用した新規分子配向プロセス
- 動的な光学パターンによる大面積分子配向
- 非偏光,非接触な機能性フィルム作製
PUBLICATIONS
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高分子主鎖配向パターニングと熱安定性の向上 Langmuir, 41, 10552–10561 (2025) -
空間選択的な光照射による重合効率の劇的な向上 Macromolecules, 57, 7430-7438 (2024). -
構造化光重合による新奇な表面構造形成 ACS Appl. Mater. Interfaces, 15, 14760 (2023). -
動的光重合による高次構造の配向制御 ACS Appl. Mater. Interfaces, 14, 48143 (2022). -
パターン露光による分子配向と凹凸構造の同時誘起に成功 Liq. Cryst., 46, 1995 (2019). -
動的光重合による高効率な回折光学素子の作製 J. Opt. Soc. Am. B, 36, D112 (2019). -
高分子フィルムによる光渦アレイの生成 J. Opt. Soc. Am. B, 36, D47 (2019). -
光を動かすだけ分子配向が誘起できる動的光重合法を開発 Sci. Adv., 3, e1701610 (2017). -
分子拡散による直接的な分子配向誘起現象を発見 Appl. Phys. Express, 9, 072601 (2016).
SCROLL
非線形光学効果を利用した光屈折率変調材料
新しい光機能性材料の創製に向けて,光と分子の相互作用に注目が集まっています。 オリゴチオフェンを少量ドープした液晶を高分子安定化することにより,ホスト液晶の光分子配向変化を効率良く誘起することができます。 この配向変化プロセスは非線形光学効果を作動原理としており,光強度を認識して減光挙動を示す新たな光学デバイスが実現します。

- 非線形光学効果を利用した光屈折率変調材料
- 光の強さを認識した分子配向変化
- ゲスト色素とホスト液晶非線形な減光挙動
PUBLICATIONS
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非線形光学効果における液晶構造依存性を解明 Materials, 15, 4125 (2022). -
低光強度で応答可能なベンダブル液晶調光フィルムを開発 ACS Appl. Mater. Interfaces, 13, 23049 (2021). -
基板の配向規制力を制御によってオリゴチオフェン添加液晶の光応答感度を30%向上 Polym. J., 49, 209 (2017). -
オリゴチオフェン添加液晶の光応答性をレーザーポインターで誘起 Sci. Rep., 5, 9890 (2015). -
高分子安定化によりオリゴチオフェン添加液晶の光応答を高感度化 Adv. Opt. Mater., 1, 787 (2013).
SCROLL
ソフトマテリアルによる異方性ナノ材料
金属や半導体などをナノスケール化すると,バルク状態とは異なる物性を示すことが知られています。 特にナノロッドやナノワイヤーは,形状に由来する異方的な機能を発現する可能性を秘めたナノ材料です。 わたしたちは,組織化能を有する液晶物質と密接に接合させることで,ナノ材料の配向を制御し得ることを見出してきました。 ソフトマテリアルの分子配向制御に基づき所望の三次元配向構を構成する異方性ナノ材料を開発し,ナノロッドやナノワイヤーの本質的な物性を明らかにするとともに, 多彩な機能材料へ展開することを目指しています。 さらに,設計に基づく精緻な微細造形を特徴とするトップダウン型の半導体加工(リソグラフィ)技術を, ナノメートルスケールの組織構造を自発形成するソフトマテリアルの組織化を駆使し,両者を融合することによって初めて発現する新規ナノ構造形成と機能材料創成を目指します。